サイエンスの読み物 prodused by リバコミ!

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気温がどんどん高くなり、もう夏の陽気です。先週までは学術賞特集でしたが、今週はちょっと趣向を変えて、私たちの目には絶対に触れない世界のサイエンスをお届けします。舞台は海の底、登場するのは奇想天外な動物です。


■ 想像できない世界「深海」

私たちの住む地球の7割を占めているものが何か、みなさんはご存じだと思います。そう、「海」です。では、その海の中を思い浮かべてみてください。そこはどのような世界でしょうか。
上から差し込む光、魚たちが泳ぎまわり、海藻や貝が底に住んでいる場所――。そんな光景を思い浮かべるしょうか。

確かに、それも海です。しかし、実際には水深が深くなるにつれて光は吸収され、200mに達するころには真っ暗になります。海の平均水深は3700m、地 球にある海の9割は水深200m以上の光のない世界「深海」なのです。そのうえ深海は何十気圧もの圧力がかかっていて、水温も低いので「極限環境」とも呼 ばれます。地球に暮らすほとんどの生物は、植物が光合成をしてできた有機物を栄養素にして始まる生態系の中で生きています。

しかし、光の差し込まない深海では、光合成をして有機物を生産する植物や植物プランクトンは生きることができません。植物がいなければ、植物を食べる草食 動物も生きられませんし、その草食動物を食べて生きる肉食動物だって生きていけません。つまり、わたしたちと同じような生態系をつくれないのです。


■ 海の底で見つけた煙突

そのため長い間、深海に生物はほとんど存在しないと考えられていました。しかし、1977年にアメリカの潜水調査船「アルビオン号」は赤道直下のガラパ ゴス沖で驚くべき光景を観察したのです。それは、海の底でもくもくと蒸気をあげる「熱水噴出孔“チムニー”」とそこに群れをなしている生き物たちでした。

チムニーは英語で「煙突」を意味し、海の底で温水が噴き出す場所のことで、海嶺(かいれい)と呼ばれる海底山脈にそって世界中に分布しています。陸上で は、水は100℃で沸騰します。しかし何十気圧もの水圧がかかっている海の底では沸騰する温度は100℃よりも高くなり、チムニーから噴き出す熱水の温度 も200℃~400℃にもなります。また、その熱水には生物にとって有害な物質の硫化水素やメタン、重金属といった物質が多く含まれていて、真っ黒な色を していることもあります。そんな有害な物質が噴き出すチムニーの周りに、なぜたくさんの生き物が観察されたのでしょう。

その鍵となるのは「化学合成細菌」と呼ばれる微生物の仲間。化学合成細菌は、チムニーから噴き出す硫化水素やメタンを使って有機物をつくります。つまり、 深海では植物の代わりに、たくさんの化学合成細菌が有機物を産生し、深海に住む他の生物はその有機物を食べるためチムニーの周りに集まっていたのです。


■ 餌を食べないで生きる動物

そんな生き物を代表するのが「チューブワーム(和名:ハオリムシ)」と呼ばれる動物です(下記写真)。チューブワームのから だはとてもふしぎ。大きな種類では最大2mにも達し、そのかたちは長いホースのような袋状をしています。いつもは自分で分泌したキチン質でできた管の中に 隠れていて、先端の真っ赤なエラだけを出しています。エラから酸素を取り込んで呼吸し、ホースのようなからだには私たちと同じような赤い血液が流れ、生殖 腺なども観察できます。けれど、どんなに探しても口がないのです。それだけでなく、消化するための器官やおしりの穴もないのです。確かにとても奇妙なかた ちをした生き物ですが、れっきとした動物ですから、栄養無しに生きていくことはできないはずです。口も消化管もなく、どのように栄養をとっているのでしょ うか――。



秘密はチューブワームのからだの中。チューブワームはチムニーの周りにいる化学合成細菌を自分のからだの中に住まわせて共生関係をつくっています。チュー ブワームがチムニーから噴き出した硫化水素や二酸化炭素をエラから取り込むことで、体内の化学合成細菌が有機物を合成します。その有機物を栄養にして チューブワームは生きているのです。しかし、いつ、どうやってその化学合成細菌を自分の体内に取り込むのかはわかっていません。チューブワームは口を持ち ませんが、生まれてすぐの幼生は、口を持つことが分かっています。幼生のチューブワームからは化学合成細菌は見つからないので、幼生の時に口から取り込ん でいるという仮説がたてられていますが、まだ解明されてはいません。

チムニーの周りの環境は、大昔の地球の環境によく似ていると考えられています。もし、研究が進みこれらの謎が解明できれば、地球での生命誕生から、現在地球に住む生き物への進化の足跡を解き明かすことにもなるかもしれません。

地球の7割を占める海のほとんどを占める深海には、地球の謎をひも解くたくさんのヒントが隠されているのです。


<参考文献>

1) はじめての海の科学 JAMSTECBOOK創英社/三省堂書店 2008

2) 深海生物の謎 北村雄一

3) ハイパー海洋地球百科事典 http://www.jamstec.go.jp/opedia/Docs/about.html