【読み物】脳を観る ~脳型コンピューターの実現に向けて~
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こんにちは。リバネスの本田です。学術賞特集も今日で4回目を迎えました。
今回は、島津製作所系列の財団が授賞を行なっている島津賞を取り上げたいと思います。島津製作所といえば、ノーベル賞受賞者を輩出したことで有名な研究所 ですね。島津賞は、主に計測技術を開発した研究者1、2名に毎年授与される賞とのこと。そんな研究者の中から、今回は、脳を観る、つまり、脳の中で起きて いることを計測する技術を開発した松本先生を紹介したいと思います。いったいどんな技術を開発したのでしょう?
■ 記憶の貯蔵
私たちの脳は、非常にたくさんの神経細胞からできています。その数は1千億個とも言われています。しかし、この脳の中にどのように記憶が蓄えられているのでしょうか?この疑問に関して、大きく二つの説が唱えられています。
1つ目の説は、「おじいさんの顔はこの神経細胞が記憶している」、「おばあさんの顔は別の神経細胞が記憶している」というように、1つ1つの神経細胞が別 々の事柄を1つずつ記憶しているのではないか、という考え方です。しかし、この考え方では、1つの神経細胞が死んだ途端に、その神経細胞が担当していた記 憶が突然無くなってしまいます。つまり、覚えていたおじいさん、おばあさんの顔が、ある日突然完全に忘れてしまうというわけです。
しかし、皆さんそんな実感はないですよね?記憶が無くなるときって、少しずつ少しずつ曖昧になっていって、そのうちほとんど分からなくなる、と感じません か。そこで、2つ目の説。たくさんの神経細胞で1つのことを記憶しているのではないか、という考え方です。この考え方ならば、記憶が徐々に薄れていくこと にも納得できるため、多くの研究者がこの考え方を支持しています。
この「1つのことにたくさんの神経細胞が関わっている」という考え。これは、記憶に限ったことではありません。実は、物を見る際、音を聞く際など、あらゆ る行動の際に、たくさんの神経細胞が関わっていると考えられています。そのため、脳の中で起きていることをしっかりと理解するためには、たくさんの神経細 胞の活動をいっせいに観なくてはいけません。そう。松本先生が開発したのは「多数の神経細胞の活動を一度に観る技術」なのです!
■ 多数の神経細胞の活動を一度に観る
たくさんの神経細胞と言ってきましたが、どのくらいの数の神経細胞を見れば良いのでしょう?千個でしょうか?はたまた10万個でしょうか?おそらく、記憶 に関わる細胞の数と視覚に関わる細胞の数は違うと思いますが、必要な神経細胞の数は、まだ誰も知らないのです。必要な数が分からない以上、多くの研究者 は、できる限りたくさんの神経細胞の活動を観たいと思っています。たくさん観た分には、記憶や視覚など自身が知りたい現象に関わらない神経細胞の結果を無 視するということが出来るからです。
松本先生の手法では、動物を解剖して取り出してきた脳を用います。取り出した脳をスライスに切って、顕微鏡を用いて観察するのです。しかし、ただ観察した だけでは神経細胞は見えても、その細胞が活動しているのかどうか分かりません。そこで、脳のスライスの中に、ある色素を加えます。するとその色素は神経細 胞に取り込まれ、神経細胞の活動に応じて異なる光の強さの蛍光を発したりします。そのため、この色素を用いて光の強さ等を測定することで、たくさんの神経 細胞の活動を同時に、しかもミリ秒単位で観ることができるのです。
この手法はすでに発明されていましたが、従来の方法では一度に100~200箇所の記録しか観測できませんでした。ここで、松本先生の登場です!松本先生 は、この手法を大きく改善し、約16,000箇所もの記録を一度に観測できる計測器を開発したのです。この技術により、一度に非常にたくさんの神経細胞の 活動を観測できるようになり、新たな発見が生み出されることになったのです。
■ 脳型コンピューターの実現に向けて
今回は、松本先生の開発した技術を紹介してきました。しかし、そもそも何のためにそのような技術を開発したのだと思いますか?松本先生が目指したもの。そ れは「脳型コンピューターの実現」です。通常のコンピューターは命令通りに動くだけですが、私たちの脳は、経験に基づいて学習することができます。しか も、その学習は、自身の価値基準の影響を強く受け、価値を認めたものに関する情報を処理できるように学習します。そこで、今回紹介した技術を用いて、記憶 の仕組みを調べ、その仕組みに基づいた脳型コンピューターを目指したのです。
今回紹介した技術は現在までに着々と進歩しており、若干解像度が劣るものの、生きている動物の脳にあるたくさんの神経細胞を同時に観ることができるように なってきています。いつになるか想像もつきませんが、遠い未来には、脳内全ての神経細胞の活動が同時に測定できる時代が来るかもしれません。その頃には、 脳型コンピューターが普及していたりして。最後は、松本先生の言葉で締めくくりたいと思います。
「脳を活性化するのは愛です。」
それでは、またお会いしましょう。
<参考文献>
「心にいどむ認知脳科学 記憶と意識の統一論」
著者:酒井邦嘉 出版社:岩波書店
「脳の神経活動を16,000箇所で実時間計測する」
市川道教、飯島敏夫、松本元 日本物理学会誌 Vol.47, No.9, 707-712 (1992)
「理工学からの脳研究とその手法 脳研究に対する生物物理的アプローチ」
松本元 Biophysics Vol.35, No.4, A25-A29 (1995)
「光計測法による高次神経系の機能的構造解析」
飯島敏夫、市川道教、高島一郎、松本元 Biophysics Vol.34, No.5, 219-222 (1994)
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