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こんにちは。設楽愛子です。学術賞特集第3回目になります。
さて、みなさんは、「海の幸」はお好きでしょうか?マグロやヒラメ、ブリといった魚からアワビ、カキ、エビ、カニなど……私たちは日々たくさんの魚介類を 食べています。その海の幸をみんながよりおいしく、安全に、たくさん食べられるように研究するのが水産分野の研究。今回は農林水産省が行う農林水産業の分 野で優れた功績を挙げた若手研究者に対する賞「若手農林水産研究者表彰」を受賞した坂本崇先生の研究をご紹介します。



■おいしくて安全な魚を育てるため

魚介類を食卓に届けるものための方法には「漁業」と「養殖」があります。このうち養殖というのは農業で野菜を育てたり,畜産業で牛や豚を育てたりするのと 同じで、海の中に生け簀をつくってその中で管理して魚を育てる方法です。海に漁に出かけるのと比べて、飼育環境から餌までを管理することができるため、安 定した量の魚介類を生産できるというメリットがあります。しかし,養殖の技術というのはまだまだ研究が進んでおらず、「品種改良」によってよりおいしく育 てやすい品種がつくられている野菜や畜産物と違い,野生の魚を管理して育てているというのが現状。

けれど品種改良は、長い年月をかけて選抜と交配を繰り返さなければなりません。時間をかけて育てても「寒さに強い」形質や「実が大きい」という有用な形質 が次の世代へと確実に遺伝されるわけではないので,時間と労力,そして運も必要になります。そこで,そんな手間のかかる品種改良をスピードアップさせるた め,生物の設計図である「DNA」を利用した研究をしているのが坂本先生です。


■特徴の目印「DNAマーカー」

生物は「DNA」という設計図を持っています。ヒトならヒトの、イネならイネの設計図というように、DNAにはそれぞれの特徴が情報として書き込まれてい ます。また、同じ種類の作物でも「コシヒカリ」と「ひとめぼれ」など品種の違うものがあります。この品種の違いというのもDNAに書き込まれた情報の ちょっとした違いによるもの。

DNAはアデニン(A)チミン(T)シトシン(C)グアニン(G)の4つの並び方での違いを作り出しています。もし「寒さに強い」形質を持つ個体だけが 持っている「並び方」を見つけられれば、それを目印にして「寒さに強い」品種を探し出すことができます。この方法なら環境や天候に左右されることもなく、 また見た目の違いは全くない作物の中から有用な形質をもつものだけを選抜して育てていくことができ、品種改良を早く行うことができます。このときの目印に したDNAの並び方を「DNAマーカー」(既出http://livacomi.jp/item_647.html)と呼びます。

坂本先生はこのDNAマーカーを使って「病気に強い魚」を選抜し飼育する技術を開発しました。


■病気に強い魚をつくる

魚を育てるとき決まった広さの生け簀の中でたくさんの魚を飼育すると,魚にストレスがかかったり、発生した病気が蔓延したりしてしまいます。しかし、治す ためとはいえ,むやみに薬を餌に混ぜて与えると海に薬が流れ出てしまい野生の生き物たちに影響があるかもしれません。そこで現在は,薬に頼らないでも養殖 を行えるような予防接種となるワクチンの開発や、病気に強い魚を飼育するための遺伝子工学を利用した研究が行われています。その中で坂本先生が目をつけた のが、野生の魚の中にいる「もともと病気に強い個体」の存在。生け簀の中で病気が蔓延しても死なない個体がいるのです。その個体だけを見つけ出して育てる ことができれば、病気による大量死を防ぐことができます。

従来の品種改良を用いると、魚を一度病気にして生き残った魚に子どもを産ませ,さらにまた病気にして生き残った魚をまた飼育……というように、長い時間を かけて数多くの工程を踏まなければなければなりません。また、一度病気に感染した魚はたとえ生き残っても病原体となる菌を体に持っていて,病気にはならな いけれど感染はしている状態「キャリアー(保菌者)」になってしまう可能性があります。そのような魚を一度もその菌にかかったことのない魚と一緒に飼育す ると大量死の原因になります。

病気に感染させずに病気に強い魚を見つけ出すために利用するのがDNAマーカー。坂本先生は病気が蔓延しても死なない魚と死んでしまう魚の2つの集団のDNAを比較することで、特定の病気に強いという情報が書かれている設計図の近くに存在する目印を見つけ出しました。

目印と言うのはA, T, C, GのうちCとAが何回も繰り返される「マイクロサテライト」という場所にありました。マイクロサテライトの繰り返しの回数が特定の病気に強い魚と弱い魚で 違っていたのです。そこをDNAマーカーとして利用し,ある特定の病気に強い魚だけを選んで飼育することで,病気に強い集団をつくることに成功しました。

坂本先生の成果のひとつがリンホシツチス病という病気にかかりにくいヒラメの作出。リンホシツチス病は、皮膚に綿のようなできものができてしまうウィルス 病,たとえ感染してもヒラメが死ぬことはありませんが見た目が悪いため売ることができなくなってしまい問題となっていました。坂本先生はリンホシツチス病 にかからないヒラメの目印を見つけ出しました。そして,その目印をDNAマーカーにしてヒラメを選び飼育していくことで,リンホシツチス病にかかりにくい ヒラメの品種を開発しました。現在その品種は養殖用の稚魚として生産され,日本中で育てられています。

また、坂本先生は、他の病気や違う種類の魚でもDNAマーカーになるマイクロサテライトを見つける研究をしています。さらに,リンホシツチス病にかからな いヒラメの中で,違う病気にも強い種類を見つけ出せれば、より病気にかかりにくく,強い養殖魚を飼育できるようになります。何年か先には、坂本印のDNA マーカーを持った養殖魚が魚売り場にずらっと並んでいるかもしれません。


<参考文献>
坂本崇(2004) マイクロサテライトマーカーを用いた連鎖地図作製と有用遺伝形質の解析 日本水産学会誌 

K. Fuji, K. Kobayashi, O. Hasegawa, M. R. M. Coimbra, T. Sakamoto, N. Okamoto,2006 Identification of a single major genetic locus controlling the resistance to lymphocystis disease in Japanese flounder (Paralichthys olivaceus).Aquaculture,254,203-210

Takashi Sakamoto, Nobuaki Okamoto, Mamoru Ishii, Masashi Maita, Yayoi Ikeda,1996 RFLP and VNTR markers isolated from the genomic DNA of rainbow trout and cytogenetic mapping by fluorescence in situ hybridizationFisheries Science,62,719-722